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「決定論的カオス理論に基づく時系列解析システム」 計装 8月号 Vol.40 No. 8 (1997)

1 はじめに

時間と共に変動する現象を,時系列信号として観測し,その性質を解析し,さら にはその将来の変動を予測することを目的とする「時系列解析」は,生体現象; 気候; 地球環境; 工学システム; 経済システムなどのあらゆる分野で必要とされ る重要な技術である.そのような不規則に振動する時系列信号に対して,従来で は,周波数解析などの線形理論に立脚した統計的記述法や,自己回帰モデル(AR モデル: Autoregressive model)や自己回帰移動平均モデル(ARMAモデル: Autoregressive moving average model)などの確率的線形モデリング手法が,時 系列解析の分野の重要な役割を担ってきた.しかし,「決定論的カオス」の発見 以降,このようなアプローチが必ずしも適切でない現象の存在が明らかになりつ つある.ここで,最も簡単な例を示そう.以下の漸化式はロジスティック写像と 呼ばれ,図1 のような複雑な時間的挙動を示す,1変数の非常 に単純な差分方程式である.

 

  
図 1: 式(1)から得られた時系列

この複雑な挙動の本質は非線形性にあり,このロジスティック写像の振る舞いは, 単純な決定論的な法則が,確率的な現象に相当するランダムネスを生み出しうる ことを示している.この時系列信号から,そのからくりを引き出してみよう.す なわち,時系列データの の関係をプロットすることで,図 2 に示したような非線形構造を明らかにすることが出来 る.

  
図 2: 図1の時系列信号の-の関係をプロットしたもの

このようなカオス時系列信号の周波数特性を調べても,確率的なランダム信号の それとは区別がつかず,また,この非線形性をARモデルやARMAモデルで記述する ことは不可能である.そして近年,システムの非線形性から生じるカオス的現象 の遍在性が工学系,生体系,流体系,生態系,化学反応系などのさまざまな実在 系で示されつつある[1].従来,システムの複雑な振る舞いは多く の場合,「実験装置の不備や確率的ノイズの影響である」,「対象としているシ ステムが大自由度系できわめて複雑な系である」と解釈されてきた.しかし,そ のような複雑な現象に対して,決定論的カオスの発見と遍在性の示唆は,システ ムに内在する非線形性にその本質を見い出そうとする立場で時系列解析を行なう 「カオス時系列解析」の必要性を迫っている.本稿で紹介する「ChaosTimes」は, カオス時系列解析に立脚した本格的なツールを提供する解析システムである.


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