フェードインアウトの様子

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fig. 1
⇅ 文1 ⇵

§21. 実数体系の特徴

1. 我々は実数の集合を、加法定理を許す一次元連続体として規定した。加法定理は合同の概念を根拠とするもので、それは空間(直線)の場合、最も直感的というべきものであろうが、時間に適用するとき、事情は一変する。時間の合同ということは、間接的、規約的(conventional)である。

我々は加法定理と連続公理とから、先ず有理数を導いたが、有理数が得られた上は、連続公理によって、有理数が実数の中に稠密に分布されることが示されて、有理数の切断の隙を補充するものとして実数の体系から得られたのであった(定理3.7, 3.8)。さて、有理数の全体は可附番なる稠密集合と同型であるから(定理2.24)、§17公理Ⅱを次に掲げる公理Ⅱで置き換えることができる。それを仮に可附番の公理と呼ぼう。

Ⅱ. 𝕽(実数の集合)の中に、可附番なる部分集合の元素が稠密に分布される。

可附番なる集合は、最も簡単なる無限集合というべきものであるが、それが𝕽の中に稠密に分布されて、𝕽を抑制するというのである。加法定理をこの公理Ⅱで置き換えるならば、それは、空間にも、時間にも、同様に適用される所に、興味がある。

— 高木 貞治, "数の概念," 講談社, 2019.

⇅ 文2 ⇵

2. 我々は更に一歩を進めて、技巧的なる`可附番'をも払拭して、直截的に、次に述べるような意味で、最も簡単なる一次元連続体として、実巣の体系を統制することを試みる。

前のように、実数の集合を𝕽と書いて、次の公理を立てる。

  1. 𝕽は一次元連続体である。
  2. すべて、一次元連続体は𝕽と同型(相似)なる部分集合を含む。(約言すれば、𝕽は最も簡単なる一次元連続体である。)

この二つの公理の上に、実数の体系を組み立て得ることを示すために、任意に与えられた一次元連続体𝛺の中に、実数の集合と同型なる部分集合が存在することを証明しよう。

先ず、𝛺が無限界であることから、𝛺の中に整数の集合と同型なる部分集合が求められる。𝛺の任意の一つの元を取って、それに整数0を対応させる。或はむしろ、0を以てその元を表す記号とする。𝛺は無限界だから、この元0よりも大なる元がある。その中から任意の一つを取ってそれを1で表す。同じように、0より小なる一つの元を-1とする。以下同様にして2, 3, ⋯, -2, -3, ⋯ を取って、それら全体を𝑅0と名付ける。(選択公理)

次には、𝛺の稠密性を用いる。𝛺の区間(𝑛, 𝑛+1)から任意に一つの元を取って、それを(2𝑛+1)/2とする。なお、𝑅0の元𝑛を2𝑛/2として、元m/2 の全体を𝑅1とする。従って𝑅0 ≺ 𝑅1

このような操作を続けて、2𝑛 を分母とする凡ての有理数の集合と同型なる部分集合𝑅𝑛が𝛺の中から求められる(数学的帰納法)。然らば

𝑅0 ≺ 𝑅1 ≺ ⋯ ≺ 𝑅𝑛 ≺ ⋯

凡ての自然数𝑛に対するこれらの集合𝑅𝑛の合併集合を𝑅とする:

𝑅 = ∨𝑛 = 0𝑅𝑛

然らば、𝑅はすべての有限二進数の集合と同型である。

— 𝑅の元の間の𝛺に於る順序𝑎≶𝑏は、これらの元の記号として用いた二進数の間の大小の順序𝑎≶𝑏と平行するのものであった。

さて

𝛼 = c⋅c1⋅c2⋯ = ∑𝑖 = 0c𝑖/2𝑖, c𝑖 = 0, 1

を無限二進分数とし、a𝑛/2𝑛 = ∑𝑖 = 0c𝑖/2𝑖をその部分和とすれば、𝑅𝑛に於いてa𝑛/2𝑛で表された元は, 𝑛 = 0, 1, 2, ⋯に対して単調列を成し、それは連続集合𝛺に於いて上限を有する(定理3.2)。それを𝛼で表して、それらの凡てを𝑅に添加して集合𝑅を作るならば、𝛺のこの部分集合𝑅は実数の集合と同型である。(証終)

対照のために言うのであるが、同様の意味に於いて、整数は最も簡単な順序集合として、又有理数は最も簡単な稠密集合として、規定される。即ち:

整数の集合は、無限界なる(最大も最小もない)順序集合であるが、すべての無限界なる順序集合は、整数の集合と同型なる部分集合を含む。— 上記の集合𝑅0がそれである。

有理数の集合は、無限界なる稠密集合であるが、すべての無限界なる稠密集合は、有理数の集合と同型なる部分集合を含む、— 上記の集合𝑅は稠密で可附番だから、有理数の集合と同型である(定理2.24)。

— 高木 貞治, "数の概念," 講談社, 2019.

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fig. 2

⇅ 文3 ⇵

3. 直線上の点の全体と同型なる集合と得ることを目標として、我々は実数を一次元連続体として規定したのであるが、一次元連続体は、その範囲が広汎に過ぎて、それを制約すべき付帯条件として、加法公理又はそれに代わるべき極小性の条件(上記1のⅡ又は2のⅡ)を要するのである。連続公理の創意者デデキントに於て、この論点が十分に議論されていなかったのは、ユークリッド以来の伝統として、加法があまりにも当然なる原則として黙認されていたためであろう。

実数の集合よりも複雑なる、いわば’密度の高い’一次元連続体の手近な一例が、次のようにして作られる。それは、約言すれば、直線上の各点を線分で置き換えるのである。但、連続性を保持するために、線分は閉線分なることを要する。詳しく言えば、次の通り。

𝑥は任意の実数、𝑦は0≦𝑦≦1なる実数として、𝑥, 𝑦の組み合わせ(𝑥, 𝑦)を元素とする集合𝛺を取って、𝛺に於いて、次のように順序を定義する。即ち二つのの元素(𝑥, 𝑦), (𝑥', 𝑦')は𝑥 = 𝑥', 𝑦 = 𝑦'なるとき相等しいとし、相等しからざる場合には、𝑥 ≺ 𝑥'のとき、又は𝑥 = 𝑥'ならば𝑦 ≺ 𝑦'なるとき、(𝑥, 𝑦) ≺ (𝑥', 𝑦') とする。いわゆる辞書式順序(イロハ順)である。これが順序の規準に適合することは明白である。

さて、この順序に従って、𝛺は連続であることを示そう。𝛺の一つの切断を(𝐴, 𝐴')とするとき二つの場合が生ずる。先ず、𝐴と𝐴'とに、第一項が同一なる元素が含まれないとする。この場合には、切断(𝐴, 𝐴')によって、第一項𝑥の中に切断が生じる。よって、例えば、𝐴の元素の第一項𝑥に最大のもの、𝑥=𝑥0があって、従って𝐴の元素の第一項には最小のものないとする。このとき𝐴は(𝑥, 𝑦)なる元素を全部含まねばならないから、𝐴は(𝑥, 1)を含むが、それは𝐴の最大元素である、そうして𝐴の元素(𝑥,𝑦) の中には(𝑥、𝑦)の中には(𝑥に最小がないから)最小元素はない。即ち切断(𝐴, 𝐵)は正常である。次に、𝐴と𝐴'とが同一の第一項𝑥 = 𝑎を有する元素(𝑎,𝑦)を含むとする。この場合には、切断(𝐴, 𝐴')によって、元素(𝑎,𝑦)の第2項𝑦の中に切断が惹き起こされる。よって、今度は、例えば𝐴'に属する(𝑎,𝑦)の第二項𝑦に最小のものがあるとして、それを𝑦0とすれば、(𝑎, 𝑦0)が𝐴'の最小限で、𝐴には最大限がない。即ち、𝛺は連続である。

さて、𝛺が実数の集合𝕽と同型であり得ないことは、次のようにして示される。𝛺に於ける区間(𝑥 ≺ 0) ≺ (𝑥, 𝑦) ≺ (𝑥, 1) を 𝐼(𝑥) と書く。若しも、𝛺が𝕽と同型ならば、𝛺の区間𝐼(𝑥)は実数の区間𝐼に対応し、異なる𝑥に関する𝐼(𝑥)には共通点を有しない𝕽の区間𝐼が対応し、これらの区間は有理数を含むから、区間𝐼は可附番である。然るにすべての𝑥に関する𝐼(𝑥)は実数𝑥の全体と対等だから可附番でない(定理3.20)。これは不合理である。

同様の方法によって、三項以上、或は無限数の項から成る(𝑥,𝑦,𝑧)又は(𝑥1, 𝑥2, ⋯, 𝑥𝑛 ,⋯)を元素として、いっそう複雑なる一次元連続体が作られるであろう。

[附記] 超限順序数を用いるならば、任意の濃度を有する一次元連続体が作られる。𝛼を一つの超限順序数とし、𝜉 ≺ 𝛼なる超限順序数𝜉を第一項として、今度は下方は閉じられ、上方は開いた連続集合の元素、例えば0≦𝑥なる実数𝑥を第二項とする(𝜉, 𝑥)を元素として、集合𝛺を作り、𝛺に於ける(𝜉, 𝑥)の間の順序を、上記と同様に、辞書式に定めるならば、𝛺は連続である。詳しくは述べないが、集合論を学んだ読者には、容易に了解されるであろう。

— 高木 貞治, "数の概念," 講談社, 2019.

⇅ 文4 ⇵

4. 我々は連続公理を基礎として、加法定理によってそれを制約して、実数の体系に達したのであったが、或は又ヒルベルトに倣って、加法公理を基礎に置いて、それに`少量の連続性'を加味して、実数の体系を組み立てることもできる。ヒルベルト式の実数公理は次のようである。

  1. 𝕽は順序集合である。
  2. 𝕽に於いて§16の加法定理(1)—(5)が成立つ。
  3. 𝕽に於いてアルキメデスの原則(定理3.6)が成立つ。
  4. 𝕽はⅠ、Ⅱ、Ⅲに適合する最広範囲の集合である。

公理Ⅰ、Ⅱとよれば、𝕽は整数の集合(と同型なる集合)を含まねばならないが、公理Ⅰ、Ⅱだけならば、整数の集合が、既にそれに適合する。その上に公理Ⅳを用いるならば、𝕽は少なくとも実数の集合を含まねばならない(同型の意味でいう)。さて、公理Ⅲは、連続性ともいうべきもので、それは外観上、連続性に無関係のように見えるけれども(但、定理3.6の証明参照)、よく連続性の氾濫を抑制して、𝕽を実数の範囲に止まらしめる力を有するのである。実際、公理Ⅲによれば、有理数が𝕽の中に稠密に分布される(定理3.7の証明参照)。それで、αを𝕽の任意の元素として、αよりも小なる有理数の全体を𝛢とすれば、𝛢は有理数内の下組集合で、それが𝕽に於いて定める実数をλとすれば、α=λでなければならない。若しもα≠λとするならばαとλとの中間にある有理数が𝛢に属することから矛盾が生ずる(定理3.8の証明参照)。このように𝕽の任意の元素αが実数に等しいから、𝕽は実数の集合である。

上記公理の中、Ⅱの(1)—(4)は𝕽が加法群(アーベル群)を成すことを表わし、又Ⅱの(5)即ち加法の単調性と、Ⅲのアルキメデスの原則とは、いずれも𝕽に於る順序と加法を連絡するものである。

大まかに言えば、実数は順序集合として、連続性を有する最小範囲のものであり、又アルキメデスの原則の下に於いて、加法群の最大範囲のものである。

— 高木 貞治, "数の概念," 講談社, 2019.

⇅ 図3 ⇵

fig. 3

⇅ 何もない ⇵